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ムーンライト伝説って、出だしの一言にミステリアスさが全部詰まってると思う

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セーラームーンの象徴と言っても良いムーンライト伝説ですが、これを初めて聞いた時凄く感動しました。自分は20年ほど前友達の家でセーラームーンがビデオで流れているのを少し見て、それ以来ずっと気になってたけど見ずにいた所、つい最近見てセーラームーンに完全にハマってしまった人なんですが、その時OPのムーンライト伝説を聞いてかなり引き込まれました…w

とにかく、この曲はセーラームーンのミステリアスさがすごく素敵に詰まっている曲だと思うんです!セーラームーンは、登場人物やテーマが「大人っぽい」所が魅力の一つだと思うんですが(それでいて、ギャグとかが多くて楽しい!)、この一曲の冒頭にその雰囲気や一面が全て詰まっていると思います。

出だし

まず、あの印象的なイントロ。減三和音っぽい妖しいメロディー。短調がダークな感じを出していて、でもそれを奏でるベルのような余韻のある音色が、ちょっと大人だけど不思議なイメージを残します。

そんなミステリアスな雰囲気の中で、一番最初に放たれる言葉が…

ゴメンね

まず、これが凄く衝撃だったんです。ゴメンね!これは、ただあなたが好きだとか、ただ会いたいだとか、そういう一直線な内容ではない。何か、謝らなければいけない、自分の中で相反する気持ちが、何か存在している。なんで!?なんで謝らなきゃいけないのか??その一言が、そういった感情の二面性を語っているんです。

音楽の歌詞の作風としては、海に叫ぶような気持ちでとにかく自分の気持ちを直接語ったり、あるいはその気持を直接は表現しないけど、おしゃれな比喩を使ったりして、表現をベールに包ませたりする物があると思います。前者は「マジ」とか「ヤバい」とか、脳の中の言葉を素直に直接叫ぶような、本能にそのまま響く語り方。後者はそれだとちょっと単純すぎるから、言葉のベールを少しほどく作業を使って、でもほどいた中に入っているのは脳内の純粋な心の叫びなものとか。

でも、この歌詞はそれとは本質的に違う。気持ちの二面性そのものを、一言で歌っているんです。「ゴメンね」と謝るからには、何か表で出しているものとは隠し持っている、何か別の感情がある。その環状の存在を、この「ゴメンね」という一言が示唆しているんです。そのような二面性は、これはただ好きだ!と言うような恋ではなくて、何か駆け引きが存在している恋なんだということを示唆しています。更に、直接好きだとか言わない、言いたいけど言えないその気持ちを、「直接好きだなんて言えない」と直接言うのではなく、示唆させる。その表現方法自体が、また大人びているんです。

そんな問題提起や疑問を出だしでいきなり提示してくる、ムーンライト伝説。この流れの中で、その「ゴメンね」の一言に続いてるものが、

ゴメンね 素直じゃなくて

ゴメンね、素直じゃなくて!!まさに、ただのラブラブカップルではないような妖しさ!!「ゴメンね」の一言だけならば、「ゴメンね、昨日はアイスを服にかけちゃって。」「ゴメンね、昨日はあなたのこと叩いてしまって。」とか、そういうエピソードも続き得ます。それは恥ずかしさの裏の素直な気持ちという二面性こそあるものの、どこか衝動的に、突発的に行ってしまった行動、あるいはたまたま意図せずこぼしてしまったアイスなど、自分の「確固たる意志」とは関係ない所で起こしているエピソードなんです。

でも、「ゴメンね、素直じゃなくて」。これは、ずっとずっと付き合っている中で、意識して、自分の気持ちを少し覆い隠すような行動をしていたんだという事です。その場でたまたまこぼしてしまったアイスや、その場でちょっとしてしまったビンタだとかいうタイムスケールとは違う、明確な「意志」に基づく行動なんです。これは正に、この恋に「駆け引き」が存在しているという確固たるメッセージなんです。そしてそのような「駆け引き」こそが、ただイチャイチャすることが楽しいカップルとは、一線を画すレベルの話なのだという内容を的確に伝えているんです!!

この妖しいイントロと、この「ゴメンね 素直じゃなくて」という一言、ここまで流れた所で曲を断ち切っても、この「ムーンライト伝説」は十分成立すると思います。それくらい、「セーラームーンは大人っぽい話なんだ!」というメッセージを、この十数秒は強く、そして的確に内包していると思うんです。妖しさ満点な、そしてセーラームーンを象徴するムーンライト伝説ですが、そのミステリアスさや感動の源流は、まさにこの完璧なイントロにほとんど詰まっていると思います。

歌われ方

そして重要なのが、このイントロの歌われ方。DALIさんのさらっとした歌い方が、ますます大人っぽさを醸し出しています。例えば、これがアニソン風味やアイドル風味全開な曲調だったとしたら、

(ブレス)ご(しゃくり)めんねぇ(ちょっと語尾が上がったような歌い方)、すなーおじゃなくって

みたいな、なんかアニメっぽい歌い方もあり得るでしょう。このような表現方法は良いアニソンにもたくさんありますが、それは2次元女子の「萌え」という視点を限りなく引き出したような、「萌え」に特化した表現方法だと思います。そういった歌い方によって限りなく「萌え」と真剣に向き合い、最大化した名曲はたくさんあると思います。しかし、ここまでで述べてきたように、ムーンライト伝説は「大人っぽい駆け引きの世界」を表現した曲なんです。DALIさんはこの曲をさらっとさっぱりと歌っていますが、そのさっぱり具合が言葉自体に内包されているエピソードを直接考えさせられると思うんです。

その後

ここまでは、メロディーが始まって2小節だけです。もしこれがこのイントロだけが取り柄の曲だったら、ここまで印象に残り続ける曲にはなりません。ムーンライト伝説はその後の歌詞も、ますますこの「駆け引きのあるミステリアスさ」という雰囲気を積み上げていきます。でも、あえて大人っぽく始まったストーリーなのに、最終的には内なる感情が爆発してしまい、素直な感情が溢れだしてしまう、というストーリーになっていると思います。

はじめ、歌い手は「ゴメンね 素直じゃなくて」と言います。その後、

夢の中なら言える

と言います。

「ゴメンね 素直じゃなくて」は問題提起で、「夢の中なら言える」はある種の言い訳なんです。あなたの事が大好き。私は、直接それは言えない。普段は、言えないけど・・・でも夢の中だったら、言える。本当は、好きだから。

言いたくても言えない。でも、本当は言える。それを「本当は好きなんだよ」と表現するのではなく、「夢の中なら言える」と言う。難しい言葉に翻訳しているのではなく、状況説明自体を別の視点から捉えることで、その事態を表現しているんです。

そして「夢の中なら」という表現自体にも、どこか不思議さや夢を含んだような、ファンタジーの雰囲気が漂っています。無印のセーラームーンのOP映像は正にファンタジーのような雰囲気ですが、この「夢の中なら」という歌詞が、その世界観の構築に担保する所が非常に大きいのです。

しかしここまでで、「何を言うのか」は明言していません。まだ、何かを隠しているんです。何かを言いたいけど言えない、その状況は話しているけども、まだそれが「何か」なのは言っていない。この時点では、まだ歌い手は恥ずかしさが残っているんです。

そしてその後続くのは、

思考回路はショート寸前

ここでついに、自分の心の中の実際の状態を直接表現する言葉が出てきます。私は、「何かを」考えていて、そのせいで頭の中がもう、他のことが考えられなくなっている。すごく、もう、そのことしか考えられない。その事を、回路のショートという直接的な比喩で伝えている。回路のショートというのは、人間が手を付けてしまったら感電してしまう、危ない状態です。もう、自分では手がつけられないような危なさ。自分の事なのに。ショート寸前で、普段の機能とは全然違う、非常状態になってしまっている。そのことが喩えられています。

そして最後に言うのが、

今すぐ会いたいよ

ここにきて、やっと全ての話が完結します。あなたに会いたい。これを最後に、歌い手は明確に言います。

出だしでは、長い付き合いの中ついに勇気を奮って打ち明けた、何かを隠していたという気持ち。(それは、お互いわかっている事なのかもしれないけど、あなたにもっともっと近づくために、そのことを話したかった。という状況かもしれません。)そして二言目の「夢の中なら言える」で伝える、もう少し具体的な姿。続く「思考回路はショート寸前」で、段々気持ちが抑えられなくなり、ついに最後に「今すぐ会いたいよ」と、私のこの押さえられない気持ちはあなたなんだ、とついに打ち明けてしまう。

大人っぽさから始まって、でも結局自分の素直な気持ちを、素直に爆発させる。セーラームーンの本編でも、うさぎたちは戦いや恋の中で確固たる意志や大人っぽさを見せたりしますが、重要な場面や、あるいは日常ではその気持を素直に表現する。何か気持ちを画すような二面性が存在すること、でもそれを時には素直に打ち破って直接表現すること、そういった人間の「常に同じ姿ではない」面を、この初めの部分だけで歌い上げているんです。

そんな風に、一つのストーリーが、ここまでですでに出来上がっている。最も土台となるイントロから、このような明確なメッセージ性を持つストーリーにつながっている。そんな無意識に理解できる深さが、ムーンライト伝説という曲が長い間愛され続ける理由だと思います。そして、そのメッセージがこれほどセーラームーンという作品をよく表していることが、この曲がいかにセーラームーンの象徴であるかの礎となっていると思います。

残りの曲

一番伝えたかったのは上記の点なのですが、この曲の残りも、全体的にファンタジーを感じさせるような言葉や、はたまた時代を感じさせるような表現が沢山散りばめられています。

泣きたくなるようなMoonlight 電話もできないMidnight

これを聞いた瞬間、90年代の淡い深夜の情景が浮かびました。今なら、携帯ですぐに連絡できます。いつだって。深夜、「会いたいよーー笑」なんてメールだってできます。でも、90年代は家族全員に響き渡る家電にかけなければいけなかったんです。部屋に電話線と受話器を延ばして夜な夜な話していた女友達同士や恋人同士などもいたと思いますが、それができないような状況で、自分が葛藤していることが、この一言で伝わってきます。

だって純情どうしよう ハートは万華鏡

自分は畑亜貴さんの歌詞が非常に好きなのですが、この「だって純情どうしよう」はそれに通じる部分があると重います。(かなり大袈裟ですがw)畑亜貴さんは、言葉の文法的な意味ではなく、印象から意味を的確に伝える歌詞が多いと思います。(少し話が逸れますが、Paradise Lostから、もってけ!セーラーふく、そしてラブライブの楽曲ほぼ全てを作曲している畑亜貴さんは本当に幅広い作風を持っていると思います。本当に尊敬する人です。)例えばSnow Halationの「予感に騒ぐ 心のMelody」や、ノーポイッ!の「明日へと焦らないでね」などは、この傾向が強いと思います。ムーンライト伝説の「だって純情どうしよう」も、印象で伝える歌詞のように感じます。

また、「ハートは万華鏡」も、OP映像のようなファンタジーさの構築に一役買っていると思います。

月の光に導かれ 何度も巡り会う

ネタバレになるので詳しくは言いませんが、無印某所でこの曲が流れる所は、この歌詞が本当にぴったり当てはまっていると思います。

また、この箇所では、無印OPでセーラー戦士たちがはじめベールに包まれながらシルエットで登場し、そのベールを脱ぐ形で去って行く演出も、OPの雰囲気作りに一役買っています。ちなみに、この箇所は無印開始当初はシルエットのまま去っていく演出で、マーキュリーやマーズが登場しある程度話が進んでいくと、OP中でベールを脱いだ時に姿が見える画面に変わっているという演出がされており、粋な工夫が感じられます。

星座の瞬き数え 占う恋の行方

この歌詞も、女の子らしい恋い焦がれの一面を上手く描いた歌詞で、曲の中でも特に好きな部分です。本来厳密には星座が瞬くのではなく、星がまたたくのですが、そこは前述した印象の技法が効果的に用いられています。また、「数え」と「行方」が韻を踏んでいて、歌っていても心地の良い箇所です。

同じ地球(くに)に生まれたの ミラクルロマンス

地球を「くに」と呼ぶことは、セーラームーンのストーリーとその舞台の規模感を表す上で大きな意味を持っていると思います。また、「ミラクルロマンス」という言葉が、多面的で、運命的な出会い、そして占いに思いを馳せる様子などを表していて、上手くこの曲を締めくくっています。

批判

これだけ魅力的なムーンライト伝説なのですが、あえて批判を述べるなら以下の箇所に関する2点があると思います。

も一度ふたりでweekend 神様かなえて happy-end

この歌詞は、端的に言って他の箇所と比べて雰囲気が違うと思います。まず、weekendとhappy-endの韻の踏み方が、自分的には少しダサいと思います。まず「weekend」という単語は、あまりロマンチックな単語ではなく、平日に仕事などがあり、その存在あっての休みというニュアンスが強いと思います。その日がweekendであるということではなく、そのweekendにデートをする事がロマンチックなのであり、例えば平日にデートをしたっていいわけです。weekendという単語自体が曲全体のロマンチックさを損なっている気が、自分はします。また、そのweekendに対してhappy-endで韻を踏んでいるのが、自分的にはダサい気がします。リズム上もhappy-endが字余りのような印象を与えているのも雰囲気が崩れている気がします。

また、

神様かなえて happy-end

という歌詞は、セーラームーンのテーマと、この曲自体のテーマの両方に反すると思います。まず、セーラームーンは「女の子は夢を持っていて、それを自分自身の力で叶えることができる」というメッセージが最も重要なテーマの一つになっています。例えば、152話(SuperS 25話)「炎の情熱!マーズ怒りの超必殺技」は、このテーマを直球で伝えるような内容になっています。具体的には、大きな夢を諦めたナナ子という女の子が、レイの夢や生き方を完全にコピーして幸せになろうとしている所を、レイに自分自身の夢を持たなければいけないと諭される話です。また作品全体の設定である、セーラームーンの戦う女の子というテーマに基づいて、自分の力で敵を倒すというストーリーも、このテーマを実際の表現の形になっています。タキシード仮面がセーラー戦士たちを飽くまで補助する役割であることも、それを支える一つの要素です。

そのようなテーマの中、happy-endになる事を神様という自分以外の存在に求めているのは、少しずれていると思います。前述の「占う恋の行方」においては、「占い」というのは自分を励まし、奮い立たせる役割を果たしているのに対し、この部分では神様という外部的な存在に自分の結末を委ねてしまっています。この点は、自らの力で夢を掴み取る女の子というテーマに反しており、曲中で残念な部分です。

まとめ

このように、少し批判もしましたが、ムーンライト伝説は全体的に本当に心を掴む魅力的な曲だと思います。イントロ部分の一言目に詰まっているミステリアスさや、それを支える歌詞、そしてメロディーや曲全体の雰囲気が、セーラームーンの象徴たる所以だと思っています。ムーンライト伝説が長い間愛されるのも、これだけ自然に、そして魅力的にこのミステリアスさを伝えているからではないでしょうか。