90年代米国発セーラームーンコピペ「衛=せつな」「全員衛」

f:id:xylonite:20160714133828p:plain

世界中で熱狂的な人気で迎えられたセーラームーン。その例にはアメリカも漏れず、アメリカでもネットの掲示板上でセーラームーンに関する話題が活発に交わされていたという。その全盛期に、謎のインパクトによって長らく語り継がれた一言ネタ的都市伝説があるらしい。それは

「衛=せつな」

一体どういうことなのか。どうしてこうなった……そもそも、このコピペの発端の背景は何なのか。

当時ネットで会話と言えばその主な場はブログでも個人サイトでもなく、通称「パソコン通信」と呼ばれる、今で言う掲示板システムだった。

セーラームーンを見ていた人にとって、実はこの言葉には聞き覚えがあるかもしれない。そう、セーラームーンの151話(SuperS 24話)「真のパワー爆発!亜美心のしらべ」で、亜美ちゃんがパソコンで見知らぬ「N.K.さん」の書いた曲を聴き、それに詩をつけているという場面がある。その時亜美ちゃんが使っていたのがパソコン通信なのだ。

f:id:xylonite:20160714133539p:plain f:id:xylonite:20160714024405p:plain

N.K.さんの書いた曲を聴きながら詩をつける亜美ちゃん。よく見ると無線モデムのような小型デバイスを使っている。

アメリカでは、なんと現地での本放送開始前から、「alt.fan.sailor-moon」フォーラム、言わば「セーラームーン板」が設立され、ネット上で日本語版のセーラームーンに関する話題が活発に交わされていたという。*1いかに熱気をもって現地でもセーラームーンが(大きなお友達によって^^;)迎えられたかが垣間見える一件である。*2

そんな熱気に包まれたalt.fan.sailor-moonだが、これに関するWikimoonの記事を見ると、一際目を引く事実が記してある。

afs-m の歴史

1990年代から2000年代初頭にかけて、afs-m はセーラームーンに関するニュースや議論の為のオープンな掲示板となり、セーラームーンメーリングリストなどの他のコミュニティとは異なった役割を担うようになった。掲示板は管理されていなかったため、荒らしは絶えなかったが、それでも(中略)"Mamoru is Setsuna" などの有名な流行語が生まれ(後略)

Wikimoon - Alt.fan.sailor-moon(和訳)

この板の全盛期には "Mamoru is Setsuna" というネタが流行ったらしい。これは何なのか。Wikimoonの記事Mamoru is Setsunaによると、その理由は以下の通りだ。

Mamoru is Setsuna とは alt.fan.sailor-moon ニュースグループの初期に誕生したインターネット上の都市伝説である。誰がこの都市伝説を広め始めたかは誰もわかっていないが、それでもファンの心を掴んで離さず長らく人気を誇った。

アニメの中で二人は同じ画面中に同時に出現したことがない、といういかにもありえそうだが実は誤っている根拠と、二人が異様に似た風貌で描かれていたことが、この都市伝説の由来であるとされる。せつなの長い髪と肌の色の濃さは化粧による変装であると説明された。

この都市伝説が広まるにつれ、様々な説が派生して生まれたが、中でも話題となったのがちびうさは実は衛とせつなの子供で、衛とうさぎの子供ではないというものである。その根拠の詳細はニュースグループの読者の想像に委ねられたが、しばしば冗談めかしにその自説が語られていた。

Wikimoon - Mamoru is Setsuna(和訳)


「二人は同じ画面中に同時に出現したことがない」が本当にいかにもありえそうで笑ってしまった。*3
更にはちびうさまで巻き込まれて「ちびうさは衛とせつなの子供」にまで話が広がっている。

これだけネタにされていたことを知ると、実際の当時の書き込みを自分で見たくなってくる。
掲示板の過去ログをMamoru is Setsunaで検索すると、例えば次のような書き込みが出てきた。

2001年8月6日:
>> すごく暇だから… セーラームーン関係の(訳注:好きなカップリングの)アンケートを作ってみました。
>> (中略)
>> 5 ... (百合)?
> 亜美とせつな。
あの…でももし衛=せつななら…これってNLなのか百合なんでしょうか? ^_^;

[POLL]Pairings(和訳)

普通に使われていた!他にもこんな調子で色々な人が使っていた。これは見ていてなかなか飽きない。

こうして本当に飽きずに書き込みを見漁っていたうちに*4、ついに面白い説を唱えた書き込みを見つけてしまった。事態は「衛=せつな」だけに終わらなかったのだ。「ちびうさは衛とせつなの子供」でも飽きたらなかった。それは

「全員衛」

という内容だった。

想像するだけでじわじわくる内容である。非常に長い書き込みだが、筆者が是非おすすめしたい内容である。その書き込みが、次の通りである。

1999年3月22日:
> alt.fan.sailor-moon掲示板をここ最近読んでいる者です。
> (中略)
> それでも未だに理由がわからないので教えていただきたいのですが、
> 皆さんの間で衛=せつなという結論に至った理由と、
> もし長くないのであれば、実は全員衛でもあるという理由も教えて頂けませんでしょうか。


衛=せつなネタの根拠はわかりませんが、彼が実は全ての人物と同一人物であることは、衛=せつなからいたって論理的に示すことができます。
(注:少し長いです。何人か含め忘れた登場人物もいますが、他の人たちについてもすぐに理由がわかると思います。)


そもそも、プルートがエンディミオンに恋をしていることは有名な事実です。でも、彼らが同一人物であることから、衛は自分自身に恋をしていることになります。
ここで、ベリル、アン、そして私の記憶だとネヘレニア(?)は、衛に恋しています。
『つまり』、これらの人物は全員衛であるわけです。


そして、周知の通り、ちびうさはせつなと衛の子であることから ―― つまり衛と自分自身の子であることから ―― 彼女は基本的に衛のクローンで、要するに衛みたいなものです。
ちびうさも衛に好意を持っています。これも一つの手がかりです。
そしてちびうさがペガサスを好きなことから、彼も衛です。


うさぎなら衛の異様な自己陶酔っぷりに気づくかもと思うかもしれません。
彼女は世界で一番頭が良いわけではありませんが、そういう感じのことはわかる人です。
でも彼女は衛の違和感に一切触れません。その結論は?うさぎも衛なんです!(驚)


ところでサフィールがすごく似てる人と言えば衛です。つまり、彼らは同一人物です。
サフィールの子供時代は割と亜美に似てることから、おそらく彼らも同一人物です。
つまり、サフィールと亜美もまた衛です。


さてここで、一番はじめの論旨を拡大すると、
衛に対して好意を持っている者または衛自身は全員衛であることが言えます。
これを用いることではるか(うさぎによくナンパしています)もまた衛です。
すなわち、はるかに対して一時でも好意があった、
美奈子、レイ、そしてまことは全員衛です。
みちるは当然衛です。
そしてスターズの話によればスターライツは全員衛です。
同様の事が他の殆どのサブキャラに関して言えるでしょう。


アンはエイルが好きでした。つまり、彼女も衛です。
そしてフィオレも、まあ、当然衛です。
サフィールはエスメロードに想いを寄せられていたことから、彼女も衛です。
そしてデマンドはサフィールの兄で、衛は一人っ子であることから、
デマンドも衛です。
サフィールはペッツに愛されていて、四姉妹は全員ルベウスに秘密の想いを寄せていたことから、
5人全員衛です。


皆知っている通り、ミメットは格好良い男になら誰でも恋していますから、
彼女は衛が好きです――つまり、彼女も衛です。
彼女は多分土萠教授に好意があるでしょうから、彼も衛です。
同様のことがカオリナイトに言えます。
ここまで気づけば、実はデス・バスターズ全員が衛であったことは想像に難くないでしょう。


なるちゃんは衛が一時期好きだったことから、そして彼女はネフライトと恋していたことから、
彼もまた衛です。もう一つ知る人ぞ知ることは、ゾイサイトは実は
他の幹部全員に秘密の恋をしていた事です。つまり、ダークキングダムも全員衛です。


フィッシュ・アイは衛が好きでしたし、タイガーズ・アイもホークス・アイも
美奈子とデートしています。つまり、彼らも全員衛です。
アマゾネス・カルテットについては知らないですが、まあこの流れでいうと例外じゃないと思います。誰か何か知っていますか?


スターライツは、先ほど述べたように、当然全員衛です。
ギャラクシアは、他のセラムン敵役と同じように、衛に秘密の恋をしていました。
そしてセーラーアニマメイツは全員彼女の部下で、衛ほど自己陶酔をした人は他の人間に頼らないであろうことから、
彼女らも全員衛です。


さてここで、美少女戦士セーラームーンにおいて『厳密に』衛でない者はちびうさ、つまり彼のクローンだけです。
彼女は自分の父親の秘密を一切知らないことから、別に変装などをする動機は無いわけです。
そしてクローンというのは元の個体と全く同じ見た目であることから、
衛の変装を解いた自然状態は、実はピンク髪の女の子であることがわかります。


そして何よりも、私、そしてalt.fan.sailor-moonの殆どの人が、
いつか一時はセーラームーンのキャラの誰かに恋していたことから、
私たちは全員衛です。
ここから更に際限なく、これまでの論理を広げていけるわけです。


つまり最終的な結論は、この世界は何億もの変装した衛によって埋め尽くされているということです。


かなり論理的でしょう。ね? ^_^


ここまで読んで下さりありがとうございます。


--
..Casey McCann
--

Mamoru is EVERYBODY!!! *secrets revealed!* (和訳)

渾身の一筆である。おなじみの登場人物たちが無慈悲にも次々と衛にされていく様子に筆者は笑ってしまった。途中から少しやけっぱちになっているのもまた笑ってしまうポイントである。最終的には、人類補完計画も驚く「人類全員衛」という壮大なENDに謎の感動と笑いを持っていかれてしまった。

この書き込みには多くのレスがついたり、後に再掲されるほど人気であったようである。たとえば

1999年3月23日:
>> 敬具 CoreyAl... えーと... つまり衛
> ..Casey McCann, またもう一人の衛
もう一人の衛になんてなれない。私たちは全員一つの衛なのだから。

Mamoru is EVERYBODY!!! *secrets revealed!* (和訳)

1999年3月23日:
> もう一人の衛になんてなれない。私たちは全員一つの衛なのだから。
そしたら俺はなんで自分に返信してるんだ?

Mamoru is EVERYBODY!!! *secrets revealed!* (和訳)

などと返信されていた。

日本でも広く長らく人気なセーラームーンだが、アメリカでも、このようなコアな文化が築かれ流行っていくほど人気だったのはファンとして非常に嬉しかった。

なお、最初期の北米吹替版セーラームーン(通称DiC版)では、アメリカでの自主規制規範の違いから様々な設定変更がされてしまっており、例えば百合界のカリスマはるかとみちるが従兄妹になってしまっている。
アメリカの子供たちの幼少期を彩った、いわゆる「思い出の」セーラームーンは主にこの英語版なのだが、それでも日本語版に詳しいアメリカのセーラームーンファンの中にはこれらを無念な改悪として受け止め検閲と呼ぶ人も多い*5。作品に対する敬意と理解の深さをますます窺い知ることのできる事実である。このような事情のため、アメリカでは日本語版にも詳しいファンが多いという。*6機会があれば本ブログにて、アメリカにおけるセーラームーン人気の様子をまた取り上げたい。

*1:Wikimoonによると、これがその記念すべき設立宣言書き込みである。たしかにアメリカでの放送に先駆けて…という熱い意気込みがしたためられている。

*2:忘れてはならないのは、アメリカでも日本と同じくらい子どもたちにも愛されたアニメだということだ。実際、例えば変身アイテムなども日本と同様に発売され人気を誇った。大きなお友達は国境を越えるということである。

*3:実際は例えば二人はここで共演している。

*4:亜美ちゃんの「…楽しい?」という声が聞こえてきそうである…

*5:Sailormoon Uncensoredというサイトも存在する。

*6:日本語版アニメ/漫画をまとめてBSSM (Bishoujo Senshi Sailor Moon)、日本語ドラマ版はPGSM (Pretty Guardian Sailor Moon)などといった呼び分けも存在する。